久しぶりに今日は夏菜子に会う。

「体調は大丈夫?」
「うん。なんとか…。」

 でもそれどころじゃない。

「俺の父さんが勝手に申し訳ない。」
「ううん。いいの。私もやってみたいし。いい機会になりそうでしょ?」
「まあ、そうだな。」
「慶太くんが言っていたドームライブに向けて頑張るんだから!」

 なんだか妙に張り切ってんなぁ。
 まあいっか。

「それでなんの曲歌うんだ?」
「それを決めないとなの…。」

 もらった時間は1時間。
 いつもはもっと長くなる時もあるとはいえかなりの大舞台になることは間違いない。

 今までとは比べ物にならないくらいの人が聞いてくれるのは間違いない。
 
 やばい。
 そう考えると緊張してきた…。

「あ、そうだ。慶太くん。」
「何?」
「頼んでおいた新曲はどうなったの?」
「ああ。昨日完成した。」

 あの後もう少しだけ進化させて完成をさせた。

 できた歌を夏菜子に聞かせる。

「やっぱりいい曲ね。ラブソングに挑戦したの?」
「まあな。で、こんなんでいいかな?」
「もちろん!完璧としか言いようがないよ。」
「ありがとう。」

 夏菜子は褒め上手だ。
 いや上手すぎる。
 上手すぎて自分が調子に乗りすぎてしまうことがしばしば。

「あんま褒めないでよ。」
「なんでよ。」
「調子に乗りすぎちゃう。」
「調子に乗りすぎていいのよ。慶太くんは天才なんだから。」

 失敗した。
 今わざわざ『あんま褒めないでよ』って言わない方が良かったな…。
 余計に褒められてしまった気分だよ…。

 まあ切り替えて。

「じゃあ慶太くんが作ってくれた曲が大トリね。」
「えぇ?絶対違うでしょ。もっとみんなが知っている曲の方がいいって。」
「慶太くんの曲がどれよりも優れているっていう証拠になるからいいの。」

 これが本当に証拠になるのか?
 いや、ならないよ…。

 でも口には出さない。
 また同じ展開が待っていることは目に見えているのだから。

「じゃあ、一曲目はいつもので。」
「OK。て言うか三曲目まではいつも通りでいいよ。」
「そうだね…。でそこから慶太くんの曲かなぁ。」
「それが一番いいかもね。」
「じゃあ。それでいこっか。」
「いや…。最後の曲はみんなからのリクエスト曲にしよう。その方が盛り上がって終われるよ。」
「慶太くんの曲じゃなくていいの?」
「俺の曲は誰もまだ知らないでしょ。最後は知っている曲の方がいいよ。」
「そっか…。」

 夏菜子はどこか悔しそうな顔をしたが、俺の作戦は成功したのだからよかった。
 とにかくここまで人が来るのは初めてなのだから緊張する。
 しっかりと練習しないとな…。