「そういえば、曲できたよ。」

「本当?」
「ああ。本当だ。」

 そういえばってなに。
 今日はそれが本題だと聞いていたんだけど。

「てかそういえばって。」
「なんか変?」
「ついでみたいじゃん。こっちが本題だと思ったのに。」
「うーん。ついでじゃない?」
「え?」
「だって夏菜子と会話したり演奏しにくるのが本題なんだし。それ以外はついでじゃない。」
「そう言う感じなの。」

 なんかカッコよくない?
 しれっとこんなこと言えるなんてさすが慶太くんだわ。
 他の人だったらこんなこと言えないって。

 あ、別に惚れているわけじゃないからね。

「で、どんな曲なの?」
「俺と夏菜子が出会った時の話。」
「その時のことを歌にしたの?」
「うん。それ以外にいいストーリーが思い浮かばなくて。」
「聞かせてほしい。」

 彼はカバンからコード譜見たいのを取り出した。
 結構本格的に作ってるんだな…。

 彼の真面目な姿に私は感動した。

「じゃあ弾くよ。」
「うん。」

『初めて会った あの夜は   星が見えず  1人ぼっち
君が隣の   ブランコに  腰掛けても  気づかない
僕は感じた  あなたなら  僕の心    満たされる
君と共に   ずっとずっと 居たいんだと 感じれた

君の笑顔が 君の歌声が 聞けて 幸せだから

ここで君に会い この運命が変わった時 伝えたい 伝えたい
僕のこの声が 枯れる前まで君に届け ありがとう ありがとう』

 慶太くん…。
 思わず涙がこぼれた。
 思わず感動してしまった。

「どうだったかな。」
「なんか…。すごい…。なんか、感動したよ。」
「本当に?」
「本当だよ。」
「音痴で不快じゃなかったかな。」
「全然気にしてないよ。感動が先に来たからね。」
「音痴だなとは思ったわけ?」

 私は小さく頷く。
 イタズラな目を向けて慶太くんを見つめる。

 慶太くんはひどいなぁって嘆いていた。

「てかさ、これ1番までだよね。」

 慶太くんが頷く。

「続きも作るの?」
「いや作らない。」
「何で。」
「未完成が完成的な?」

 私は意味がわからなくてポカンとしてしまった。
 それに気づいたように慶太くんが続ける。

「この歌を完成させたらこの関係が終わってしまうような気がしてね。だから完成させたくない。この状態が今の完成。」
「へえ。」
「この歌が終わらないようにこれからもずっと2人で頑張っていこう。」
「すごいね。」
「え?何が」
「そんな考えてるんだって思ってね。」

 本当にすごい。
 一曲にこんな願いを込められるなんて。
 尊敬でしかないよ。

「慶太くん。」
「なに?」
「これから私に対して曲作ってよ。」
「え。まじ?」
「うん。まじ。こんなにもすごい人に出会ったことない。」
「あんま褒めないでよ。褒められ慣れてないからちょっと恥ずかしい。」

 そんな照れなくていいって。
 もっと誇っていいんだよ。
 でもそういうとまた否定されてしまってお互い様トークが始まっちゃうからやめておこう。

 彼に出会えて本当によかった。