彼の声は優しくて、あの目みたいに
どこか寂しそうだった。
それでも彼の声は私の心の中に
ポッカリと空いた穴を埋めてくれる
気がしていた。
普通なら知らない男から
いきなり夜中に電話があれば
すぐに切るのに…
その日は切りたくなかった。
私の心は彼のことを知りたがっていた。
「そっか…でも、その彼女って
言われてる女とはもう関係ないから。」
「別れたってことですか?」
「というより初めから別に好きとか、
そういうのじゃなかったし。」
「どういうことですか?」
「そんなこと解んねえよな。
俺…今まで女性を
本気で好きになったこと
なんてないんだ。
俺にまとわりついてくる女はみんな、
真行司の財産が目当てだったり、
俺をただのアクセサリーぐらいにしか
思ってなかったし…だから…
俺もそれ位にしか考えてなかった。」
「う…ん…。」
「こんなこと言っても
やっぱり分からない?」
「う…ん。そんな経験ないし…
それに今まで男の人と付き合ったりとか
したことすらないし。」
「最初の日…バスで逢ったの知らない?」
「えっ!?」
「新浜町で乗ったろ?」
「うん。
…あのバスに乗ってたんですか?」
「そう。初めて見た時、
生まれて初めてドキドキしたし、
話したいと思ってたらさ…
エレベーターんとこでぶつかって…
電話しょうかかなり迷ったけど…
思い切って電話しちゃったよ。
こんな時間に電話してごめんな。
また電話してもいいかな?」
「はい。」
「それじゃおやすみ。」
「はい。おやすみなさい。」
その日はそれで電話を切った。

