「…夜野、朝?」


―記憶が、戻った。

朝くんのかけてくれた言葉、表情、一緒に見た風景、全てが頭に鮮明に蘇る。


「思い、出せた…ごめん…朝くん…」


何度も謝って涙を流す私は、彼の胸に顔を近づけた。ぎゅっとふたりで抱き合う。傘が落ちて濡れても、どうでもよかった。


「よかった、よかったあ…」

「消えたら、だめでしょ」

「っえ?」


私が言うのが珍しかったのか、どこか朝くんは惚けて聞き返す。


「朝くんとの記憶も思い出も、やっぱり、消えたら、だめなんじゃない?」

「…消えてた奴が言うなよ……」


ああ、私は本当に運がいい。朝くんを思い出せて、こうして巡り会えて、雨が降って。


―ねぇ、翠さん
―俺はくま深い方が好きだけど。


何度も私の名前を呼んでくれた誰かは、ほしい言葉をいつだってくれた誰かは…


「朝くんだった……」


朝くんと道のど真ん中で、傘も放り投げたまま、記憶を取り戻した私は抱き合っていた。


この時間が、ずっと、続けばいいのに。

この雨が降り止まないことを、願っていた。