―バサッ
何か落ちる音がして、思わず顔を上げた。
なんだと思えば、広がった黒い傘が、私の下に落ちていた。落としたらしい。
私は黙ったまま拾い上げて、濡れないように黒い傘を、その誰かに、傘を傾けてやる。
「あの、大丈夫、ですか?」
傘を落とした誰かは、傘を受け取ってくれない。顔も、手も、足も静止したようで、ただ、茶色い瞳で、じっと私を見ていた。
透き通った茶色い目に映る私は、ボサボサで、くまも酷い。ふさっとした黒髪、整った鼻筋、桜色の唇、私を上回る高い身長…
とても、綺麗な人だった。
赤い傘を左手に、黒い傘を右手に持つ。私の傘に当たる雨の音を、どこか愛おしそうに聞いているようだった。
すると、一筋の涙が、頬を通って下へ落ちていった。誰かは、茶色い瞳から涙を流し泣いていたのだ。
綺麗にただ真っ直ぐと、流れていく。コンクリートに落ちた涙は、雨粒と変わらないように、雨と共に消えていく。
「どうして泣い…」
言葉は、遮られてしまった。
ぎゅっと、抱き締められたからだ。
勢いで、手にしていた赤い傘と黒い傘が落ちる。私と誰かは、雨に濡れていく。
温かくて優しい。なんだろう、この感覚。怖い、嫌だ、も何もなかった。


