病院を出た私は、ただ、歩いていた。ここは、どこなのかもわからずに。
記憶障害のせいなのか本当に知らないのか、見知らぬ風景が通りすぎていく。このまま迷子にでもなって、雨に濡れて、どうにでもなってほしかった。
不安が襲う。今日の夜に目を瞑れば、何日、何ヵ月、何年と眠るんだろうか。
右、左、右、左…
靴を動かす音がする。雨の音がする。いつまでも、この雨が降り止まないことを、この世界でただ1人で願っている。
公園からはみ出た木々、電柱も家も、お店も車も、全てが浄化されるように雨に濡れていく。
道路に出た。雨なので車が多く通っている。
―思わず、笑みが溢れた。なんだ、ここ。
立つだけで、人の体重で壊れてしまいそう。ヒビが入り錆びている。今にも崩壊しそうな、橋だった。
奥にはもうひとつ、大きく新しい橋がある。そこを通るため、この橋を通る人はいない。
橋の下には、大きな岩や、強い流れの川が流れている音がした。
なんだか愛着がわいてしまう。こんなに今の私みたいな橋は、きっと世界でここだけだ。
「落ちてみたら、どうなるのかな」
橋の手すりに手を掛けて、体を持ち上げてみる。だが、私は冷静だった。一体何をしているのだろう。意味がわからなくて、降りた。


