医者と話す内に、記憶が戻ってきた。病気のこと、お母さんや累、家族のこと、小鳥や東花のこと、クラスメイト、学校のこと…
でも、この、枯れた植物のことだけが、全く思い出せない。
「それじゃあ、検査へ行こうか」
パイプ椅子から立ち上がった医者に私は、あることを聞こうと口を開いた。
「この雨は、…」
なんて言おうと、したんだっけ。目覚めて雨の音がしたら、誰かに聞いていた気がする。
「何でも、ないです、」
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詳しいことはよくわからないが、体に大きな支障はなかったらしい。
窓ガラスに映る私は、目の下のくまも深く、髪も毛量が増えボサボサだった。検査を終えた私は、それでも、人の目も気にしないように、人の多い待合室に行き椅子に座った。
おばあさんから小さな子供もだっている。お母さんの腕の中で揺らされ、眠る赤ちゃんもいた。生まれて、3ヶ月くらいだろうか。
3ヶ月前、私が眠ったときに生まれた赤ちゃんは、生まれてからあんなに成長するものなんだろうか。勝手な被害妄想を膨らませる自分に笑ってしまった。
―ああ、もう全部どうでもいい。
止まってくれない時間の流れも、いつ起きるかわからない私の病気も、誰かを忘れた記憶のことも、いつからか降り始めた雨のことも。
極力何も考えないようにしよう。前の私にみたいに笑って、どうでもいいと言い聞かせるようにしよう。
ああ、溺れてるみたい。
夢から眠りからは目覚めたはずなのに、まだ溺れてるみたいに、息苦しい。


