「その、患者を起こせるっていうのも僕でね。あの人にとって、僕はなくてはならない存在だった。僕の声を聞かないと、あの人は目覚められない」
「そう、なんですか…」
最近結婚して、と照れ臭そうに医者は笑う。おめでとう、なんて嬉しくないかと思い、それ以上はなにも言えなかった。
医者の目は、ただ、遠くをじっと見ている。
「僕とその患者さんが巡り合えるなんて、奇跡なんだよ。滅多に起こることじゃない」
私への慰めの言葉なのかは、よくわからなかった。
「結婚した先生は、その人のことを、愛して、結婚したんですか」
「…えっ?」
「その相手の病気のために、一緒にいるために、結婚したんですか?」
真面目に言ったつもりだったが、医者に「あー」と呆気なく笑われてしまった。
「違うよ。愛していたから」
折角合わしてくれた目をそらしてしまった。その目が、本当に本当に、憎く見えたから。
「病気なんて関係なくて。あの人が、病気なんて患ってなくても、僕は、この運命になっていた。いや、この運命に僕がさせてた」
医者は、止みそうもない雨を見つめる。枯れた植物のことなんて、何もなかったようで。


