私は軽く会釈をするだけで、医者との会話の続きはお母さんが受ける。私は、看護婦さんに連れられて、病室に案内された。

診察室にしか来たことがなかったので、高い階数に登るのは初めてだ。

私の病室は、端っこにある個室だった。窓が付いていて、そこからの夜景は綺麗だった。


「姉ちゃん、これ、ここ置いとくね」


累は、窓際に花瓶を置いた。月が出る夜空と、電灯が所々光り車が動く街と、優しく揺れる四つ葉のクローバーがなんだかマッチしていた。

ドラマとかでよく見るような病室、生けた花瓶。私は、病気なのだと実感させられる。


「姉ちゃん?」

「あ、あーうん」

「ここ、嫌だった?」

「ごめんごめん、ううん、そこでいい。累、ありがとね。お母さんのとこ行きな?」


この病室にいた前の患者さんは、どんな人だったんだろうかと、気になってしまった。

病室の半分を占める、ベッドに腰を下ろす。ふかるかで、とても気持ちいい。隣には、パイプ椅子が並べられていた。


「姉ちゃん。俺、待ってるね」

「…えっ?」


累は、茶色く猫っ毛なふわふわ髪を揺らす。照れ臭そうに、累は昔と変わらない笑顔で笑う。


「姉ちゃんの瞼が開くことを、ずっとずっと、忘れずに願っとくから」


私が眠っていても、その一瞬一瞬を、累は私のことを願い思ってくれる。私のことを忘れないでほしい。そう、思えた。