「……朝陽を一緒に見たとき、前に、俺にひとりじゃないって言ってくれたときも」
曖昧な記憶の中から、必死に思い出そうとするだけで、情けないことに精一杯だった。
朝くんはひるを拾い上げて、胸にぎゅっと抱き寄せる。きょろっとした目をして、ひるは、暴れずにじっとしていた。
「翠さんに、俺のことを言おうとしたんだけど」
「…うん」
「俺は、結局弱虫だから無理だった。言葉にできなくて言ったらどうなるかって、怖かった。…生まれて初めて、人を、こんなにも好きになったから」
だから、朝くんは続ける。
「翠さんに俺のことを話したら、また前…いや、夕のときみたいに、壊れるって思った」
「こわ、れる?東花…?」
「でももう待つのは、俺だけがいいから」
曖昧にこくりと頷くと、朝くんは元に戻ったように、優しく笑った。
話す怖さなら私でもわかる。
何を、話されるのだろうか。
私は聞くために、どんなことができるのか。そうしっかりと噛み締めて思った。
朝くんは私の隣に座る。ひとつ呼吸をして、朝くんは続ける。
「俺の父親、医者なんだけど、知ってるでしょ?」
その時、朝くんの茶色い目と、あの医者の目が重なった。思い出した、あの言葉を。
―実はね。僕の息子も君と同じように、何の病かわからない、恐ろしい病気を患っていてね…
「まさか」
―天塔さんと、重なるなぁ…
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