まどろみ3秒前


「翠さん嫌だもんね?夕みたいな、この手みたいな、切り傷付けられるとか」

「ひゃ…ちょっと……」

「怖いもんね?いや、最初から、怖かった?一緒に死にたいとか言った、俺のこと、どう思った?怖い?一緒に、いたくないよな?」


私は抵抗していたのに、すごい力で近付いてくる男子の力には逆らえなかった。


気付けば、顔がものすごく近くにある。

いや、近いなんてもんじゃない。

隣には両腕があって、正面には、顔がある。


「…近…っ」


そのまま押し倒された私は、床ドン状態になっていた。


「っなんか…おかしいって…ふざけんな…」

「なんで?」


怖いほどに無表情で、いつもと違う朝くんと目を合わさないように、顔を横に向けて息をしやすいようにする。


「…っ私は、傷のこととか、何も知らないからわからない。傷つけられるとか、心配してない…!なんだかんだ優しい人だし、何も心配してない、怖くないから、大丈夫だから」

「…」

「なに、今日どうしたの?いつもの朝くんに戻ってよ…折角、今日、起きれたのに…」


最後は、自然と声が震えた。

その時、何か匂いがした。猫の獣の匂い…?


「ひる…助けて…この人…変だ…」


私は朝くんを指差しながらひるに言った。

扉の隙間から入ってきたらしい。何も知らないひるは、床ドン状態の私と朝くんを、じっと、交互に見つめている。

それから、はっとしたような顔をして、朝くんはすぐに「ごめん…」と私から離れた。



「…前みたいに頭おかしくなってきて」

「前って」


落ち着きいてきたのか話し始めた朝くんは、黙ってこくんと頷く。起き上がって、私は克服したひるを、膝の上に乗せた。