「翠さん嫌だもんね?夕みたいな、この手みたいな、切り傷付けられるとか」
「ひゃ…ちょっと……」
「怖いもんね?いや、最初から、怖かった?一緒に死にたいとか言った、俺のこと、どう思った?怖い?一緒に、いたくないよな?」
私は抵抗していたのに、すごい力で近付いてくる男子の力には逆らえなかった。
気付けば、顔がものすごく近くにある。
いや、近いなんてもんじゃない。
隣には両腕があって、正面には、顔がある。
「…近…っ」
そのまま押し倒された私は、床ドン状態になっていた。
「っなんか…おかしいって…ふざけんな…」
「なんで?」
怖いほどに無表情で、いつもと違う朝くんと目を合わさないように、顔を横に向けて息をしやすいようにする。
「…っ私は、傷のこととか、何も知らないからわからない。傷つけられるとか、心配してない…!なんだかんだ優しい人だし、何も心配してない、怖くないから、大丈夫だから」
「…」
「なに、今日どうしたの?いつもの朝くんに戻ってよ…折角、今日、起きれたのに…」
最後は、自然と声が震えた。
その時、何か匂いがした。猫の獣の匂い…?
「ひる…助けて…この人…変だ…」
私は朝くんを指差しながらひるに言った。
扉の隙間から入ってきたらしい。何も知らないひるは、床ドン状態の私と朝くんを、じっと、交互に見つめている。
それから、はっとしたような顔をして、朝くんはすぐに「ごめん…」と私から離れた。
「…前みたいに頭おかしくなってきて」
「前って」
落ち着きいてきたのか話し始めた朝くんは、黙ってこくんと頷く。起き上がって、私は克服したひるを、膝の上に乗せた。


