まどろみ3秒前


「風邪じゃない。移んないから」

「いやそういう問題じゃなくて、体調悪いんだったらしんどいだろうし、もう今日は…」

「いい。俺は大丈夫だから」


一向に曲げない朝くんの対応に、私は一体どうすればいいのかが、わからない。

もしかしたら、いつもない寝癖がついているのも、体調が悪くてベッドで休んでいたからなんじゃないか?

ベッドのシーツや掛け布団が乱れているのもそのせい?だから、いつもより扉を開けてくれるのが遅かった?


考えれば考えるほど、この状況はよくない。


「やっぱ、帰る」

「だから、何ともないから。さっきのは躓いてちょっと倒れただけ。心配しすぎなんだよ」


いやいや、こんなに物数少なくて転ぶことある?疑問に思ったが、確かに心配しすぎかもしれない。

風邪じゃない、と言い続けて無理をした前の私に似ていた彼のことを、少し心配になっただけだ。

でも…、本当に、大丈夫なんだろうか。


「あれ」


朝くんの手の甲を見つめる。切り傷のような、痛々しい傷が入っていた。

古いものではなく、新しい傷のようで。


「傷?そんなのいつから」

「あー、わかんない」


どこか目が泳いでいるように見えた。


私は、鞄から絆創膏を取り出し、彼の手に触れる。その途端、すっと手を後ろに隠されてしまう。注射を嫌がる、子供みたいだ。


「いい。絆創膏は俺の家にもある」

「じゃあなんで貼らないの?ちゃんと傷は、治そうとしないとだめでしょ」


強引に、私は朝くんの手を掴んで、無理矢理にでも絆創膏を傷の上に貼り付ける。彼は、もう抵抗しなかった。