「風邪じゃない。移んないから」
「いやそういう問題じゃなくて、体調悪いんだったらしんどいだろうし、もう今日は…」
「いい。俺は大丈夫だから」
一向に曲げない朝くんの対応に、私は一体どうすればいいのかが、わからない。
もしかしたら、いつもない寝癖がついているのも、体調が悪くてベッドで休んでいたからなんじゃないか?
ベッドのシーツや掛け布団が乱れているのもそのせい?だから、いつもより扉を開けてくれるのが遅かった?
考えれば考えるほど、この状況はよくない。
「やっぱ、帰る」
「だから、何ともないから。さっきのは躓いてちょっと倒れただけ。心配しすぎなんだよ」
いやいや、こんなに物数少なくて転ぶことある?疑問に思ったが、確かに心配しすぎかもしれない。
風邪じゃない、と言い続けて無理をした前の私に似ていた彼のことを、少し心配になっただけだ。
でも…、本当に、大丈夫なんだろうか。
「あれ」
朝くんの手の甲を見つめる。切り傷のような、痛々しい傷が入っていた。
古いものではなく、新しい傷のようで。
「傷?そんなのいつから」
「あー、わかんない」
どこか目が泳いでいるように見えた。
私は、鞄から絆創膏を取り出し、彼の手に触れる。その途端、すっと手を後ろに隠されてしまう。注射を嫌がる、子供みたいだ。
「いい。絆創膏は俺の家にもある」
「じゃあなんで貼らないの?ちゃんと傷は、治そうとしないとだめでしょ」
強引に、私は朝くんの手を掴んで、無理矢理にでも絆創膏を傷の上に貼り付ける。彼は、もう抵抗しなかった。


