温かな、春の匂いが少し薄くなっていた。桜は散り、夏の緑の葉が混じっている。
家族でお花見だって行きたかったし、もっと、家族と春を触れあいたかったと後悔が混じる。私以外で行ったのかもしれない。そう思うと、どこか寂しい気持ちが溢れ出した。
―私は、今日も朝くんと連絡を取って、朝くんの家へやって来た。
インターフォンを押すと、いつもはすぐにでも出てきてくれるはずなのに、今日は何も応答がなく静かだった。
連絡してたのに留守か…?なんて不思議に思いながらもう1度と手を伸ばした瞬間、扉が開いた。
「あっ」
少し髪の跳ねた、どこか眠そうないつもの朝くんが出てきた。見た瞬間、ほっと心が温かくなる。
「翠さん、…おはよ」
「うん、おはよう」
彼の顔を見る度に、くまもない目の下が羨ましくなる。
いつもの部屋へ行くと、物数の少ない、殺風景な部屋が広がる。確かに思い出せば、累の部屋も物数が妙に少なかった気がする。
男子の部屋は、大体こうなのかもしれない。
いつもの、甘酸っぱい果実の匂いがする。
座ろうとすると、ふらっと、朝くんがこちらに倒れかけてきた。
「っやば、ごめん」
私が受け止めると、直ぐ様、彼は頭を抱えながらベッドに座り込む。
「え、大丈夫?」
「なんでもない、大丈夫」
「…今日は、帰ろうか?」
荷物を持とうとすると、「待って」と引き留める声が聞こえた。


