朝くんは、「あっ、そーだ」と思い出したように続ける。
「あの男子たちに絡まれる前、翠さん、なんて言おうとした?気になることあるとかなんとか言ってた」
「あーごめん、もう覚えてないや」
笑って誤魔化したが、本当は、鮮明に覚えている。今でも、気になっているくらいだ。
でも、朝くんが何らかの病気なんて、そんな風には見えない。本当かもわからないのに、こんなに楽しい時間に言うのは、失礼に値する。
それに、もし、そうだとしても…
「待ってるから、ずっと」
私は、四つ葉のクローバーの茎を折れない程度に、でも強く握りしめた。
朝くんは、妙に、しばらく黙っていた。
無表情な朝くんは、何を思っているのか全く読み取れなくて、少しだけ怖い。カアカアと黒いカラスが私達の頭上を通っていく。
なんだかドキドキと心臓が鳴っていた。胸が痛く感じた。彼が何を言うのか、怖くて怖くて。
それから、ゆっくりと、桜色の唇が開く。
「何を待ってんの」
そう言って笑う朝くんは、どこか変だった。
「いっつも、俺が待ってんのに」
「朝くん」
「……なに」
夕陽に染まる空。
この空が、夜を呼ぶ。


