まどろみ3秒前


「やばくない?あの人、めっちゃクールイケメンじゃない?顔惚れちゃうんだけど~」

「さっき彼女にキスしようとしたよね?絶対」


うわぁ…ムリムリ怖い怖い…ああいう目で見られてるの、無理だ、ほんと怖い。

ていうか、この人全然クールじゃないんですよ。それだけは言いたいな、なんて思った。


「あ、次の駅だから立っとこ」

「っあ…」


私もと立ち上がった瞬間、ぐらりと視界が変わる。揺れる電車に、体感が弱い私は逆らえなかったらしい。

さいあく…こんな車両のど真ん中で情けなくこけたくなかったんだけどな……


やば、と呟いたのは、私ではなかった。彼だった、朝くんだった。


「なにしてんの」


私の腕を引っ張ってくれたおかげで、私は倒れずにすんだ。


「よかったギリギリセーフ…!!!」

「いやセーフじゃないけど?」

「セーフ!私、倒れなかったです!!体感弱いとか言うなし!!!」

「ちょ、言ってないし声でかいって」


人差し指を口に近付ける朝くんに言われ、あっ、と口を直ぐ様に閉じる。倒れるよりも恥ずかしいことをしてしまい、唇を噛む。


「あれ、翠さん耳赤くなってる」


耳たぶを触られて、思わず心臓が鳴る。


「恥ずかしい?」

「…は?別に」

「ふうん?」


まだ私の手を離さないでいてくれる朝くんの手は、いつもより、少し温かかった。


「高身長でクールでイケメンとかやば…連絡先とかサインでももらいにいこうかな」


女子の声が聞こえて、私は朝くんの手を掴んで、開いた扉から思い切り飛び出た。