「やばくない?あの人、めっちゃクールイケメンじゃない?顔惚れちゃうんだけど~」
「さっき彼女にキスしようとしたよね?絶対」
うわぁ…ムリムリ怖い怖い…ああいう目で見られてるの、無理だ、ほんと怖い。
ていうか、この人全然クールじゃないんですよ。それだけは言いたいな、なんて思った。
「あ、次の駅だから立っとこ」
「っあ…」
私もと立ち上がった瞬間、ぐらりと視界が変わる。揺れる電車に、体感が弱い私は逆らえなかったらしい。
さいあく…こんな車両のど真ん中で情けなくこけたくなかったんだけどな……
やば、と呟いたのは、私ではなかった。彼だった、朝くんだった。
「なにしてんの」
私の腕を引っ張ってくれたおかげで、私は倒れずにすんだ。
「よかったギリギリセーフ…!!!」
「いやセーフじゃないけど?」
「セーフ!私、倒れなかったです!!体感弱いとか言うなし!!!」
「ちょ、言ってないし声でかいって」
人差し指を口に近付ける朝くんに言われ、あっ、と口を直ぐ様に閉じる。倒れるよりも恥ずかしいことをしてしまい、唇を噛む。
「あれ、翠さん耳赤くなってる」
耳たぶを触られて、思わず心臓が鳴る。
「恥ずかしい?」
「…は?別に」
「ふうん?」
まだ私の手を離さないでいてくれる朝くんの手は、いつもより、少し温かかった。
「高身長でクールでイケメンとかやば…連絡先とかサインでももらいにいこうかな」
女子の声が聞こえて、私は朝くんの手を掴んで、開いた扉から思い切り飛び出た。
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