まどろみ3秒前


「ねぇ、待ってよ」

『あ?なに』


え、え?夜野くんだよね?夜野くんではないくらいに、声色が冷たく態度が違った。


「…あ、あの、あたし、あの」

『ごめ、今ちょっと大切な人といて、できるだけ話したくないだけど。切ってもい?まあ、俺が間違えて掛けちゃったんだけど』

「…は?」

『あーあの告白のやつ?返事?返せてなくて悪かったとは思ってんだけど、なんて返せばいいかわかんないくて。まじごめん』

「ま、待って待って?そこにいるの、誰?」


その時、私の鼓膜に響いたその声は、すぐさま、忘れようとしていた記憶を蘇らさせた。


『どうした…ってあ、通話中か、』


決して普通の女子より高くない声。

優しい声。

聞こえるはずのない声が、スマホから流れる。


『ごめんなさい』


翠……?








「ほんとはあんな奴好きじゃないよ」

「笑える言い過ぎ~。やっぱ、柚ちゃんようゆうとこ面白いよねぇ」


嘘だった。


自分への好感度のため、自分のキャラのため、自分の身を守るため、嘘をついた。

その頃の私は、それが嘘かもわからなかった。何年も時が経った頃、嘘だと気づいた。