「ねぇ、待ってよ」
『あ?なに』
え、え?夜野くんだよね?夜野くんではないくらいに、声色が冷たく態度が違った。
「…あ、あの、あたし、あの」
『ごめ、今ちょっと大切な人といて、できるだけ話したくないだけど。切ってもい?まあ、俺が間違えて掛けちゃったんだけど』
「…は?」
『あーあの告白のやつ?返事?返せてなくて悪かったとは思ってんだけど、なんて返せばいいかわかんないくて。まじごめん』
「ま、待って待って?そこにいるの、誰?」
その時、私の鼓膜に響いたその声は、すぐさま、忘れようとしていた記憶を蘇らさせた。
『どうした…ってあ、通話中か、』
決して普通の女子より高くない声。
優しい声。
聞こえるはずのない声が、スマホから流れる。
『ごめんなさい』
翠……?
゜
゜
゜
「ほんとはあんな奴好きじゃないよ」
「笑える言い過ぎ~。やっぱ、柚ちゃんようゆうとこ面白いよねぇ」
嘘だった。
自分への好感度のため、自分のキャラのため、自分の身を守るため、嘘をついた。
その頃の私は、それが嘘かもわからなかった。何年も時が経った頃、嘘だと気づいた。


