「ねぇ、夜野くん彼女いんの知ってる?」
友達が言った。思わず、揺れる電車の中、手に持っていたリップを落としてしまった。
「…えー噂?それ」
「そ。誰かが見たんだって~」
きゃはは、なんて笑う友達を横目に、私はリップを拾い直し、ぎゅっと握りしめた。
噂なんか当てにならない。それでも、好きな人ってなると、聞き逃しができなくなる。
「…何組?あ、先輩?可愛い人多いもんね」
「いや、他校らしいよ?」
たこう?は?ふさげんな。
どうして?どうして、他校にまで行って恋愛する必要が?いや、なに?同じ塾の子とか?
「夜野くん、恋愛するの…?」
メイクも髪型もネイルも、全部、私は夜野くんのために頑張ってきたというのに、どうして?こんな可愛いって自信つけてきたのに…
「なーに考えてるのかわかんないな、あの人」
ため息をついて、ひとり、私は道に続く帰路を歩く。夕陽に染まった空を見上げながら、石ころを思い切り蹴った。
その時、スマホに着信があった。
その着信には、明確な見覚えがある。
驚いた私は、スマホを落としそうになりながらもすぐに応答ボタンを押した。
「よ、夜野くん!?!?」
なんだ、この、チャンスは。
やばい、やばすぎる―
『あ、間違えたー、ごめん』
おっちょこちょいな面を見れた反面、無愛想なその態度に、思わず泣きそうになる。


