まどろみ3秒前


「ねぇ、夜野くん彼女いんの知ってる?」


友達が言った。思わず、揺れる電車の中、手に持っていたリップを落としてしまった。


「…えー噂?それ」

「そ。誰かが見たんだって~」


きゃはは、なんて笑う友達を横目に、私はリップを拾い直し、ぎゅっと握りしめた。

噂なんか当てにならない。それでも、好きな人ってなると、聞き逃しができなくなる。


「…何組?あ、先輩?可愛い人多いもんね」

「いや、他校らしいよ?」


たこう?は?ふさげんな。

どうして?どうして、他校にまで行って恋愛する必要が?いや、なに?同じ塾の子とか?


「夜野くん、恋愛するの…?」


メイクも髪型もネイルも、全部、私は夜野くんのために頑張ってきたというのに、どうして?こんな可愛いって自信つけてきたのに…




「なーに考えてるのかわかんないな、あの人」


ため息をついて、ひとり、私は道に続く帰路を歩く。夕陽に染まった空を見上げながら、石ころを思い切り蹴った。


その時、スマホに着信があった。

その着信には、明確な見覚えがある。


驚いた私は、スマホを落としそうになりながらもすぐに応答ボタンを押した。


「よ、夜野くん!?!?」


なんだ、この、チャンスは。

やばい、やばすぎる―


『あ、間違えたー、ごめん』


おっちょこちょいな面を見れた反面、無愛想なその態度に、思わず泣きそうになる。