「…僕はね。別に、君にその人を探せと言っているわけでも責めてるわけでもない」
若い医者は、まるで妖精のように微笑んだ。
「奇跡でしかない。でも奇跡は、起こるかもしれない。それを、信じてほしい」
「奇跡なんか、簡単に起こせないです。奇跡を起こせるのは、選ばれた運のいい人だし」
「ある患者はそれで治った。起きることができた。眠りから解放される、ひとつの手口なんだ。他の手口を、今、研究しているところだから。……それを信じて、今は、耐え抜いてほしい。生き抜いて、ほしい」
私の表情を見て、生き抜いてほしい、なんて言ったんだろうか。まだ原因不明だからこそどんなことが起きるのかわからなくて怖いのに。本当は、怖くてたまらないのに。
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体を休めて、とは医者に何度も言われたものの、私は負けん気で学校へ来た。
体は重く、頭や喉が痛くてたまらなかった。完全に風邪症状があるような気がするが、熱はない。長く眠ったせいだろう。
眠気はなかった。ただ、体がしんどい。
―ガラッ
久しぶりに見た、誇りやシミ汚れた教室の扉を開けると、3限目の途中だったらしく、クラスメイトがこちらを振り向いた。
視線がこちらに集まる。そんなことも気にしないように、私は教室を見渡した。
いつの間にか席替えをしたらしく、私は先生に言われた新しい席に腰を下ろした。


