雨は止まないまま晴れ、朝陽は昇る。

なんだか、私らしいな。思わず笑ってしまった。


「翠さん、」


茶色い目と目が合う。

驚いた。目の奥にいる私は、とても綺麗に笑っていたのだ。作り笑いの仮面も剥がれ落ちたように、ただ、笑っていた。


「やっぱ、いい」

「え、なに」

「なんでもない。…あ、そうそう。これ言おうとしたんだった」


小さく首を傾げると、今度は子犬みたいに、私に思い切り抱きついてきた。思わず「わっ…」と声が漏れた。


「やっぱ、翠さんが好き」

「……うん」

「大丈夫。俺のことは、好きにならなくていいから」


好きってなんなんだろう。ふと思った。付き合いたいわけでも結婚したいわけでもない、そんな好きって、あるのだろうか。

でも、朝くんは、付き合うとか結婚とかどうでもいい、と言っていた。


「…ごめんなさい」

「なんで謝まんの」

「…今まで、笑って感情を捨ててきたから。わかんないんだよね、そういうの」

「ん、大丈夫。…待ってるから、ずっと…」


そこで気付いた。朝くんの体が、震えていることに。朝くんも、何かに怯えている。


「あー翠さんと朝陽見るって夢、やっと叶えれた。嬉しい」

「夢?」

「そ。まあ夢っていってもつい昨日考えてたことだったんだけど」


「なーんだ」と笑いながらも、私は言った。


「…ありがと、朝くん」


ぎゅっと抱き締め返した。

ふたり、雨に打たれて濡れていく。

ずっと、こうしてくっついていたい。私は、ただそう思っていた。