思い出したことがあった。
「ねぇ、朝くん」
「ん、なに」
クールな顔からは想像できないほど、また猫みたいに、私の肩から顔を覗かせて私に上目遣いしてくる。
「1人は犠牲になるけどもう1人は助かるか、2人で一緒に溺れるか…どっちを選ぶ?」
電灯の明かりが一瞬ちかりと暗くなりまた戻る。壊れかけなんだろうか。このバス停自体も相当古そうだし、当然かもしれない。
「なに、その質問」
無表情で、またごろんと肩に顔を預けだした。ぴくりと心臓が、鳴った気がした。
首に朝くんの黒髪が当たってくすぐったい。
「…答えて」
「翠さんは?」
何も考えようとしていないようで、少しイラッとする。私のことを聞かれるとは思ってなくて、思わず「私?」と自分に指を指した。
「…人に、よると思う」
「じゃー俺だったら?」
「…朝くん、だったら」
「そ」
―私と朝くんが、海や川で溺れていたとする。ひとりは助かるが、もうひとりは助からない。そんな時、どうするんだろう…


