「負けた」
実感に浸る私を横目に、ポツリと彼は言った。
「…負けた?」
「俺も高校で定期テストあったから。翠さんが100点なんか、思ってもなかったから…、100とられたらもう翠さんに点数負けたし」
「え、そうなの?!いや学校のテストのレベルも違いあるだろうし、それなら自分のテスト勉強に集中してればよかったのに…なんで黙って頭脳クソな私なんか教えて…」
「いやだって、翠さん喜んでるの、見たいから」
いたずらっぽく笑ったと思えば、「教えるのっていちばん覚えやすいもんだし」と優しくカバーしてくれていた。
真っ暗闇に包まれ、電灯だけが明かりだ。川があるが、川の音がないと、川すら暗くて見えない。雨の音が、聞こえていた。
「今、何時かな」
思えばスマホを忘れてきてしまった。お母さんにも何にも言ってないし、どうしよう。明日の朝まで帰ってこないとか、絶対にお母さんは心配するだろう。容易に想像ができる。
でも、まあ…いいか。
「時間なんかどうでもいいじゃん」
「…うん、そだね」
「俺は、翠さんといる今この瞬間を生きたいから。時間なんか忘れよ?」
「…忘れる」
時間も全て忘れて。私はただ、隣で朝くんと話していよう。そう、思った。


