「ここ、自殺スポットなんで。そーいうの、死にたい人は感じるんですかね」
バカにしたように、また彼は鼻で笑った。
しばらく、私は彼の目を見つめていた。
彼も、私の目を見つめていた。
なんだかこの目をそらしたら負けだと思ったから、そらせなかった。
2人、昨日から降り止まない雨に濡れながら。段々と、厚い雲の色が暗くなっていく。
―夜が、来るのだろう。
大嫌いな、夜だった。
「あー、言ってませんでした」
彼は、私に微笑んだ。
「俺、夜野 朝《よるの あさ》っていいます」
「よ、よるの…あさ」
なんだか、とても綺麗でお洒落な名前だ。
夜と朝が名前に入るなんて、珍しい。私には、夜野という名字も、朝という名前も、聞いたことがない名前だ。
なんかこんな名前のホストとかいそう、と勝手すぎる偏見で思ってしまった。
「なに、ホストでいそうとか思ってないですよね?洒落てる名前だからって」
ムッと頬を少し膨らませて彼は言ったので、私は「ああ」と呟く。
「めちゃくちゃ、思ってました。もしかして、心を読み解く魔法使いですか?」
冗談で笑みを張り付けて言うと、彼は「ついに頭イカれ始めてる」と、どこか真剣な表情で言う。それが、また気に食わない。
―その時、だった。
私の意思ではない。体の力が抜けたように、体に力が入らなくなった。
寒くて頭も痛かったし、風邪をひいたのかもしれない。
「やば」
そう呟いたのはもう遅い。


