まどろみ3秒前


「…朝起きたら、朝くんのこと記憶になくて、忘れてた。1週間も寝てたから、ちょっと記憶が曖昧になることがあって、さ」

「…」

「朝くんは、待ってて、くれたのにね。…私って、ほんと最低な奴だ」


やっぱり、笑えなかった。口角が上がらない。

するとゆっくりと、彼の抱き締めていた力を抜けた。

朝くんの顔を覗くと、とても赤く目がうるうると潤んでいた。まるで、か弱い子猫のようで私の方から抱き締めたくなるほどだった。


「…え、俺のこと、覚えてない?」

「いやいや、ごめん、忘れてて、ごめん。でも、ちゃんと思い出したから。思い出せてよかった。朝っていう、すっごく素敵な名前」


私は、優しく朝くんに笑いかけた。そんな私を見て、彼は、安心したように笑っていた。


「…ごめんより、よかったは?起きれてよかった、でしょ?謝んないで」

「うん、ごめん…よかった、よかった」

「あーあ…真っ正面で、泣き顔見られた」


私と出会ったあの橋の時よりも、空虚だった彼の目には光が満ちているように見えた。


「なんでこのバス停、連れてきたかわかる?」


朝くんは、軽い足取りでベンチに座り込んだ。バス停は、屋根とベンチだけがある。天井は今にも壊れそうで、錆び割れていた。

バス停からは、川の景色がよく見えていた。きっと晴れていれば、眺めがよかっただろうに、今日は、あいにくの雨だった。


「…わからない。なに」

「ここは、俺の秘密基地だから。全面開放スタイルのだけど」

「…なに全面開放スタイルって」


私が小さくツッコミをいれると、彼は「あ、笑ってくれた」なんて嬉しそうだった。

私は、朝くんの隣に腰を下ろして座った。