「えっ…なにして…」
私と彼は、傘も失くして、案の定雨に濡れる。
なにこいつ、変貌した?なに、怒った?
何が起きたのかわからず、頭が混乱しポカンとしていると、彼はまた急に動き出した。
私と同じように橋に足掛けて、軽々と橋の柵によじ登る。すぐに、私の隣に行き着いた。
「ちょ、危ない」
私のすぐ隣に腰を下ろし、彼の顔は私の顔に近づいてくる。桜色の唇がゆっくり開く。
「俺に、会いに来たわけじゃないの?」
下を見ると、荒い川と大きな岩がある。
落ちれば、死ぬ。絶対、死ぬ。助からない。
「とりあえず、降りて危ないから」
私が彼の腕を掴んで引っ張るが、揺れるだけで、動いてくれなかった。
「あなたは、優しい人ですね。自分は死のうとしてるのに、相手の死の心配をして」
何一つ心に響かない。病気のせいにしていたけれど、昔からそうだったのかもしれない。優しいと褒められても、嬉しくなかった。
いつから、この橋のように崩壊していったんだろう。


