「ねぇ翠さん。今日の最後にカッコつけてちょっと言ってもいい?」
「あ、うんいいけど」
今日の最後…そっか、もう夜か。
「俺も翠さんも、夜は大っ嫌い」
「…急に、なに」
「でも、そんな俺らは忘れてることがある」
空は、雨の匂いがするくせして、夜空には雲ひとつなく星が出ていた。ポツリポツリと少ないけれど、輝く星を繋げると星座が作れるのだろうか。
私はオリオン座くらいしか知らない。昔と変わらず星はそこに位置している。
月は昼でも見える時があるけれど、こんなに綺麗な星は、きっと暗い夜にしか見えない。
彼は、空を見上げて星を指差す。
高身長なくせに、何故か一瞬、私には無邪気なまだ小さい子供に見えた。
「夜になると、冷えて辺りが暗くなって、空が夜の色に染まる。曇りのときもあるし、今日みたいに星が出てる日もある」
「…そんなの、当たり前じゃ」
「そう。夜になると空が暗くなる、そんな奇跡の当たり前を、世界は忘れていく」
「…」
「この世界は、本当に綺麗なんだよ。朝には太陽が昇り、昼には真上に太陽があって、夜になると太陽が見えなくなって沈んでいる。夜が来るのは本当に奇跡で、すごいこと」
「…うん」
「俺は、夜が嫌い。でもやっぱ、好きになりたい」
夜風に吹かれ、「カッコつけた」と言って優しく笑う彼に、言いたいことがあった。
だけど、今この瞬間に言ってしまえば、私の前から消えて失くなってしまいそうで。


