【said Touka】
カアッカアッと呑気なカラスの声がした。廊下から窓を覗くと、もう空は暗かった。
友達でもないクラスの男子に、勉強を教えてくれとせがまれてしまい、放課後に図書館で残っていたのだ。今、やっと終わったところだった。
「はぁ…」
大きくため息を吐く。人と話すと疲れる。教えても、わかっているのかわからないような「んー」という返事しか言わないあのクラスメイトのことが、今さっき嫌いになった。
教室に荷物を置いてきていたので取りに行こうと、教室に着いて扉を開ける。
―ガラッ
「…っえ」
後ろ姿でわかった。
ゆっくりと、その人は振り返る。
その人も、俺と同様驚いた表情をしていた。
何秒も続く静寂。ひとつ呼吸をして、静寂を破るように教室に足を踏み入れた。
「…お前、なんでいんの?出てけよ」
怖いほどに静かな教室に、自分の声が響く。出来るだけ目を合わせないようにして、自分のやろうと思っていた任務を全うする。
「あー無理だけど」
低い声に、軽やかな口調。
あーあ、変わってない。以前よりも、まるで崩壊を待っているような目になっていた。本当に、俺はその目が嫌いだった。
「なにしてんの?」
「不法侵入」
「あ?わかってるそんなこと」
「目的」と強調して言った。


