一筋の涙が、綺麗な肌を通っていく。まるで雨みたいに、地面に落ちた。
「朝くん…?あ、そんなに感動した?」
目が充血して涙を流す彼を見て、思わず堪えきれず笑ってしまった。彼は、背を向けて涙を拭う。
「…初めて、泣いたんだけど」
彼の声は、少し曇った涙声になっている。「初めては嘘でしょ」と言うと、彼は「嘘だ」と認めた。流石の朝くんだって、赤ん坊のときは涙を流したらしい。
「…俺って、泣ける人間なんだな」
「泣ける人間?人って、誰でも泣くんじゃない?こんな私だって泣いたんだから。だから、朝くんだって泣いたっていいよ別に」
どこか曇った口調の彼に出来るだけ優しく言った。
「…叶わない」
彼は、空を見上げた。写真にして売れるくらいに、今、私の目に映る瞬間は綺麗だった。
「翠さんには、叶わないな」
私に振り返った彼は、優しく笑っていた。
―私は、全然人のことを知らない。知ろうとしてこなかった。でも、今知りたいと思えた。
朝くん。あなたは、一体何者なんだろう。


