「あー会いたかった」
肌が触れあっている。背の高い彼は余裕な感じで私を包み込んでいた。急に真正面でハグなんて赤ん坊以来で、固まってしまった。
「翠さん真面目だからさぁ?俺、ちゃんと不法侵入やめたんだよね」
「…っあーそうなん、だ」
「テストどうだった?」
「えーっと、えっとね、」
何て言おうとしてたんだっけ…この状況で話さなければならないのだろうか…
じっと口が嘘のように固まっていると、察したのかすっと離してくれた。周りを見渡して、この抱き締められた状況を誰かに見てなかったかと心配になる。いや、どうでもいいか、そんなこと。
「…悪かったの?」
「ううんううんううんそんなことは」
「え、3回言う人初めて見たんだけど」
優しく笑う彼に心底安心した。改めて思った。ちゃんと起きて、勉強し、ちゃんと当日に起きてテストを受けれてよかったと。
「朝くんに言われた通り、ちゃんと諦めずに全部埋めた。だから、頑張った…ちゃんとできたよ…私…」
また、彼は優しく私を抱き締めた。「えらいえらい」と頭をポンポンしながら。
「最初は、100点とかどうでもいいし暇潰しに勉強するとか言ってたくせにそんな涙目になって。ほんとバカかよ」
「…そんな時代、あったかも」
「いやあったし。ほんとにもう」
彼は、笑いながら私の髪をくしゃくしゃにしてきた。こんな風に、私も誰かに笑いかけられることがあるなんてな。死んでたら、こんな喜びのような感情はきっとなかった。


