じーっと辺りを見渡していると、小鳥が急に笑いだした。慌てて小鳥に振り向く。
「翠さ、最近帰るときいっつも周りキョロキョロしてるけどなに?彼氏でもできたの?」
…は?かれし?「違う違う」と私は笑いながら首を横に全力で振った。
「彼氏でしょ?最近学校朝から毎日来れてるのも、彼氏いるから?会えるから??」
「いや違うよー」
はは、と笑った。少しだけ、小鳥の声色に変化が表れたのが気がかりだった。妬んでるみたいな口調に私には聞こえる。
病気のことを小鳥に話してもいいかもしれない。いや、でも話したら長くなるし、うまく言葉にできるかが不安だ。話すことに利益はない。なら、話さないでいいか。
小鳥といつもの交差点で別れた。
信号が青になり、歩き始める。先にあった少し斜辺がある坂を上る。
そこまで急ではないはずなのに、足がしんどい。私の体力の問題なのか否か。
上ると、下りの斜辺があって、足を踏み入れながら早足で下る。
「すーいさん」
小鳥が私を呼んでいるのかと思ったが、まず声が違うし私への呼び方も違った。後ろから、私を呼ぶ声…
振り返ると、彼が後ろからこちらへ駆け寄ってきた。軽々とした足取りで坂を上る彼の姿は、まるで朝陽が昇るようだった。
「あ、朝く…」
ん、と言ったと同時に急に抱き締められた。


