まどろみ3秒前


私の心を温めてくれた。どうでもいいのに。


「…手紙?」

「この橋で待ってるって俺、手紙書いてあなたの机に入れたはずなんですけど」

「…手紙」


自分の頭にわからせるように呟くと、「そうです」と彼はため息混じりに頷く。


「あーこの紙切れ、手紙なんですね」


ポケットから、くしゃくしゃになった紙切れを取り出す。スカートのポケットにも雨水が入り、雨にも濡れていた。

紙切れを開くと、『おちょこ橋 待ってる』と綺麗な字で書かれてあった。


「自分で見ると、なんか、恥ずかしい」


彼は皮肉に鼻で笑った。


「…どうでもいい」

「は?」


聞こえないようにポツリと呟いたつもりだったが、彼の耳には雨の中でさえ聞こえていたようだ。


「…は?なんですか?」

「は?」


その後何度も「は?」が交互しあった後に、やっと彼の口から「なんで」という言葉が発せられた。


「全部、どうでもよかったんで」


髪から雨の水が、重力に従ってポタポタと落ちていく。私は浅い呼吸をして下を向いた。

笑いを浮かべた顔に雨に濡れ、口角を上げるための頬が痛かった。


「バカかよ」


何故か、急に敬語から暴言に変わる。私は初対面の誰かもわからない男にバカにされた。

彼は、全く表情を変えない。本当に、何を思っているのか考えているのか読み取れない人だった。