私の心を温めてくれた。どうでもいいのに。
「…手紙?」
「この橋で待ってるって俺、手紙書いてあなたの机に入れたはずなんですけど」
「…手紙」
自分の頭にわからせるように呟くと、「そうです」と彼はため息混じりに頷く。
「あーこの紙切れ、手紙なんですね」
ポケットから、くしゃくしゃになった紙切れを取り出す。スカートのポケットにも雨水が入り、雨にも濡れていた。
紙切れを開くと、『おちょこ橋 待ってる』と綺麗な字で書かれてあった。
「自分で見ると、なんか、恥ずかしい」
彼は皮肉に鼻で笑った。
「…どうでもいい」
「は?」
聞こえないようにポツリと呟いたつもりだったが、彼の耳には雨の中でさえ聞こえていたようだ。
「…は?なんですか?」
「は?」
その後何度も「は?」が交互しあった後に、やっと彼の口から「なんで」という言葉が発せられた。
「全部、どうでもよかったんで」
髪から雨の水が、重力に従ってポタポタと落ちていく。私は浅い呼吸をして下を向いた。
笑いを浮かべた顔に雨に濡れ、口角を上げるための頬が痛かった。
「バカかよ」
何故か、急に敬語から暴言に変わる。私は初対面の誰かもわからない男にバカにされた。
彼は、全く表情を変えない。本当に、何を思っているのか考えているのか読み取れない人だった。


