「はぁあ…」とため息をつきながら、東花は本を勢いよく閉じた。「本なんか好きじゃないわ」と言って本を私に投げつけてきた。
「…気を付けろって言ってんだよ」
強く、私を睨み付けた。その目はまるで獲物を捕らえる虎のような目。東花が投げつけてきた小説を優しく机上に置いた。
「はいはい。誰ことかわかりませんけど」
冗談ぽく、私は話を片付けるように笑った。
「俺は知ってるよ。あいつのこと」
東花の目には、嘘がなかった。真っ黒で、しっかり逃げずに生きている人の目だった。そんな目に合わせられなくて、下を向く。
「…俺は、あいつの幼なじみだった」
「えっ?」
言ったあとに、しまったと口を閉じる。思わず言ってしまった。こうなればもう、私はあの人と親しい関係だと言ったようなものだ。
幼なじみ…?
東花は私を一目見て、ふっと鼻で笑い、また話を続ける。
「優しい人だった。泣いている子供がいたら得意の四つ葉探しで四つ葉見つけて、それをあげてた。顔もよかったからめちゃくちゃモテてたしさ、あいつは。……でも、」
泣いている子供にあげた、四つ葉…
私にもくれたな、なんて思った。


