「王子のキスで目覚める」
「…え?」
「言い換えれば、王子のキスがないと目覚められない。…その患者は、その人を見つけ出した。何億人も中にいた、たった1人をね。きっと奇跡だったんだ、あれは」
まるで、芸術や音楽の何かに見惚れるように、医者はぼんやりと宙を見つめていた。
「どういう、ことですか」
宙から私に目が移る。瞳は、輝きを失い、どこか空虚だった。
「天塔さんの体を起こせるのはね、この世界のたった1人の人間。それ以外の人や物、自分では絶対に君を起こせない。…朝、その運命の人の声を聞いただけで、体は目覚められる」
運命の、人…
頭で何度ももリピートする。
私と同じ病気を患った患者さんは、一体、どんな人なのだろう。一体、その運命の人とは、何億人もの人がいるのに、どうやって巡り会えたのかなぁ…


