「ただいまーお母さん」


私は、勢いよくリビングの扉を開く。すると、また心配の表情を浮かべたお母さんが駆け寄ってきた。

弟やお父さんの姿はいない。お風呂にでも入っているか、もう部屋に戻ったのだろう。


「翠!?2日寝てたの…?学校、行ってたのね。勉強、友達に教えてもらってたのね…」


お母さんは、急に泣き崩れてしまった。綺麗なぱっちりとした目から、涙が出てくる。3日寝たぶりだった。


「お母さん?なんで泣いてるの」


私は、平気なように、いつも通り笑った。


「友達くらいいるし。大丈夫」

「そうだよね…」


まあ、友達ではない。あの人は…なんなんだろう。まあ、頭のおかしい人ってことにしておこう。そこはお母さんに嘘をついてしまったと申し訳なく思う。


弟は勉強で部屋に、お父さんは仕事で疲れてパタッと寝てしまったらしい。

お母さんが作ってくれた晩御飯をひとりで食べて、お風呂に入り、丁寧に時間をかけて歯磨きをして。


私は、ベッドに潜り込んだ。


―お母さんだって、笑ってくれればいいのに。お母さんだって、2日も寝てたのって、冗談ぽく笑ったらいいのに。あの、朝くんみたいに。

どうして、泣き崩れるほどに心配するのかな。



「おやすみ」



私は、天井に呟いて、目を瞑った。眠気やら疲れやらで、今夜はすぐに夢に落ちた。