「こうなったか……」
 僕は仕方なく放課後まで過ごして、チャイムと同時に学校を飛び出した。巡回がまだ多いのでサボってしまうと見つかる可能性がある。そうやって足止めを食えばそれこそ失敗を招きかねないのでやむを得ない。だから僕は逸る気持ちを抑えて真っ当に学業をこなさなければならなかった。
 家に着いたら早々にノートと町内地図を取り出して、あらかじめいくつか用意した方法を再確認する。その中から選びつつも、この状況下でより確実な物にする為に少々の変更点を加える。
 窓の外に目を投げる。まだ陽は赤く染まっていない。もう少しだけ時間はあるはず。
 ただ、僕は揺らいでいた。まだ「どちらか」わからない。
 別に、もう一人の方は放っておけば色々と手間を取らないで済む。それで犠牲者が増えたとしても僕が耐えれば良いだけの話だ。だが、果たして僕に「これ以上」人を見殺しに出来るのかという疑問、というか、そんな自分を認めたくない気持ちがせめぎあっていた。
 今更こんな感情が湧いてくるなんてむしが良過ぎる事は分かっているが、しかし湧いてきた物はどうする事も出来ない。
 時刻は迫っていく。もしかしたら今日じゃないかも知れないし、今日かも知れない。
 決断しなければいけない。決断するんだ。
 そうだ。僕はあの日に決めたんだ。何が何でもやり通すと。誰を犠牲にしてでもやると。
「ただいまー」
 玄関から母親の帰ってくる声が届いた。僕は再び窓の外に視線を投げる。いつの間にかもう陽はほとんど沈みかかっていて、空は暮れていた。時計を確かめて確信し、僕は階段を駆け下りた。玄関先で母親の姿を確認する。何か聞かれた気がするけど僕は答えずに、脇をすり抜けてそのまま家を飛び出した。
 やはり、そうなるか。そうなるよな。

 ――――もう後はやるしかない。