6月1日(火)
今日はよく晴れた暑い暑い日。桜の木に張り付いたセミもよく鳴いている。
段々と暑さにやられ機能していなかった頭が動き出す。
ここは、どこだ?知らない場所。私は一人でバス停のベンチに座っている。
「来栖凛さんですね。」
知らない声がする。少ししわがれた男の人の声だ。私はこの声を知らない。
「まず始めに、23年間お疲れ様でございました。天から賜った命を粗末にすることなく天命を全うした凛様を心より尊敬致します。」
『なんで私の名前を知っているんですか?』そう聞こうとしたのに。
あれ?なんで声が出ないんだ?
「あぁ、申し訳ございません。説明を先にすべきでしたね。来栖凛様享年23歳、大学へ徒歩で向かう最中の横断歩道で信号無視をして歩道に走ってきたトラックにはねられた事となります。思い出していただけたでしょうか?」
目の前の人はそう言った。
そうか、私は死んだのか。そう言われるとなんだか妙にこの状況にも納得がいった。
その時に感じたのは何かわからない「悲しみ」。何に対して悲しいと思っているのかもわからないけれど胸が空っぽになってように悲しいし、虚しい。
何だ、この気持ち...?
「多分それは生前の記憶がなくても多少感覚が残っているからでしょうねぇ。」
この人私の心の声が聞こえている?
「あぁすみません、聞こえていますよ。」じゃあ会話も一応できるってこと?「はい、一応。」
心が読めるなんてファンタジーじゃん、本当にあるんだ凄。
こんな状況でもワクワクが抱ける自分に少し驚く。
「私がこんなことを申しあげるのもどうかとは思いますが、事故でなくなったこと、悔しいとは思わないのですか?」
悔しい?
「若くして理不尽に命を奪われた。相手が故意的に起こした事故ではないかもしれませんが、普通は少しは自分を轢いた相手を恨むものです。ですが、凛様からは憎悪が感じられません、感じられるのは悲しみだけ...どうしてですか?」
どうしてって言われてもなぁ、轢かれたからってもう死んでんだから相手恨んでもどうしようもなくない?もし殺されたとしても自分の話だったら私相手恨んだりしないと思うよ?
「そうですか、そういう考えもあるのですね。参考になりました。もしよろしければもう一つ質問よろしいですか?」
別にいーよ。
「相手のことを恨まないというのなら、貴方は何故悲しみという感情を抱いているのでしょうか。憎悪の感情とはやはり違うのですか?私は人間、亡くなってしまった人間のお客様を相手にすることが多いのですが、なんせ私自身が人間ではないのであまり感情というものが理解できないのです。参考程度に教えていただけると幸いです。」
んー...『悲しみ』...漠然とは感じるけどそれが何に対しての感情なのかが思い出せない。ちゃんと生きてた頃の記憶がないからわかんないや。役に立てなくてごめん。
「とんでもない、私のほうこそ遠慮もなく申し訳ございませんでした。」
あ、いや全然大丈夫。そんな謝らなくていいよ。ていうかさっき基本はっていったよね?それ以外にもあるの?
「お許しいただきありがとうございます。ところでこれからのお話を少しさせていただいてもよろしいですか?」
あぁー、死んだしよく見る未練解消とかやるの?天国か地獄に行くとか??
「いえ、他のかたからもよくそのような話はお聞きするのですが実際は少しシステムが違うものとなっております。」
へー、じゃあどんなんなの??
「まず、基本の流れとしましては成仏していただきます。地上でいう天国や地獄などとは少し違う場所で、わかりやすく言うと無の世界です。」
私は今からそこに行くってこと?どうやって行くの??
「はい、そこまでご案内するのが私達の役目となっております。」
なるほどね?ていうかさっき基本はって言ってなかった?その他にも可能性ってあるの?
「もう一つ選択肢がございます。完結に言うと成仏しないと言う方法ですね。そちらをお選びになると永遠にこの場所にいることとなります。ただ、もういいや、いなくなりたいと少しでも願った場合には即消滅となります。一時の気の迷いだろうと取り消すことは絶対にできないのでそこだけはご注意ください。」
へー、そんな事もできるんだ。どっちにしよっかな...すぐ決めなきゃいけないの?
「今すぐという必要はありませんが、少し急いでいただく必要があります。ある程度の期限的なものを過ぎてしまうと選ばなくても成仏することができなくなってしまいます。」
なるほどね...じゃあちょっと考えていい?期限みたいなのが近づいたらもう一回呼びに来て。
「承知いたしました。では、もう一度迎えに参るまでよくお考えください。ここには時間という概念がございませんので明確にいつ来るかということはお伝えできませんのでできるだけ早くご決断するようにお願いします。」
はーい、ありがと。