放課後のチャイムと共に教室を出て、樋口くんの元へと向かった。校門前で待っていた彼は案の定、チョコを渡すために集まっている人でいっぱい。


ダメもとでスマホを鳴らしてみたが、やはりとても出られる様子ではない。


スマホをリュックにしまって人集りの中に無理やり入って樋口くんの所に行くことにした。押しつぶされそうになりながら、強引に歩みを進める。


「ひ…ひぐちくん」

「水瀬さん!」


押しつぶされて、もうダメと思っていた私の手を引いてくれたのは必死な表情をした樋口くんだった。


「樋口くん待たせちゃってごめんね。あ、テスト頑張ったよ」

「うん。たくさん聞きたいな。水瀬さんの話」


これから沢山話すよ。今までお預けになった分、全部。


「樋口くん、その子…」


あ!すっかり忘れてた。


私たちの周りにはまだ大勢の人がいて、気づかないうちに注目の的になっていた。


どう返答しようか迷っていると、掴まれていた手が引かれて樋口くんの腕のなかに閉じ込められる。


「俺の大切な人」


周りが悲鳴をあげるなか、私は自分の心臓の音しか聞こえなくなっていて、頭の中は真っ白になっていた。


見上げると優しく微笑む樋口くんがこちらを向いていた。再び手を握られ、その場を走り去る。