【短】夕陽の記憶

私はその背中を追いかけた。ここで話さなかったらきっと後悔する。


「樋口くん!」


声に驚いたのか、振り返った彼は目を見開いていた。


「水瀬さん!?どうしたの?こんな人気のない廊下に」


いつもの樋口くんだ。さっきのは幻だったのか…。

違う。あの姿もこの姿も本当の樋口くんだ。


「樋口くんと話したくて探してたの。それとごめんなさい。実はさっきも近くにいて」

「え?!もしかして見てたの?」

「うん。話しかけるタイミングなく。2人っきりで話したかったから」

「いや、あの…話したかったのは俺もなんだけど」


けど?もしかして、あの姿を見られたのがショックだったのかな?そうだよね。今まで見せてこなかったのは、私が離れると思ったから。


「私はどんな樋口くんでも受け止めるよ。だから、真剣に話がしたい…!」

「水瀬さん。…ごめん、俺行くから」

「待って…!!」


後ろ向いて離れようとする樋口くんの手を掴んで引き止めた。


ここで諦める訳にはいかない。今、私が言える精一杯を伝えなきゃ。


「バレンタインの日、私に時間をください!伝えたいことがあるの」

「何?それなら今聞きたい」

「今はダメ。今はテストに真正面から向き合いたいから。全部終わったら話す。それまで待っていて欲しい…!」