【短】夕陽の記憶

「だから珍しいって思ったよ。樋口が女子に興味を持つなんて。水瀬さんは樋口にとって、何か特別なものを持っていたのかもしれないな」


特別なものなんて、私には…。


「分かる気がするな、樋口くんの気持ち」

「華ちゃん?」

「胡桃は一生懸命なんだよ。どれだけ失敗して、泣きたくなるような状況だって、努力を重ねてきた。少なくても私はそんな胡桃の姿に特別なものを感じるんだ」

「努力なんてそんな…。樋口くんの方が何倍も。私の比にはならないくらいこれまで頑張ってきたんだよ?」


図書館で問題を解いている隣で、樋口くんが勉強しているノートがチラッと見えたことがあった。


その書き込みはとても細かいもので、何回も消しゴムで消された跡が残っていた。


私がつまずいている間に樋口くんはどんどん先に進んでいる。その差は言葉では表せないほど大きくて、遠い。


「胡桃は樋口くんのことをよく見ているんだね」

「そんなこと」

「ううん。話してみて分かった。樋口くんが胡桃のことを気にかける理由。真っ直ぐ自分のことを見てくれたから胡桃のことを特別な存在に感じたんだよ」

「周りは樋口の薄っぺらいところばかり見ていた。容姿も成績も。最初は本当に興味本位だったかもしれないけど、それは時間と共に“特別”に変わっていった。会話を重ねるごとに水瀬さんは自分の外面じゃなくて、真っ直ぐ内面を見てくれたことが、今まで会ってきた人とは違う何かを感じたんだろうな」