龍真の過去を知ってから、また数ヶ月が経った。相変わらず龍真は堂々と隣の席で寝ている。
席替えしたのだが、場所が1番前のど真ん中になっただけで、隣なのは変わらなかった。
担任が教卓に立ち、こう言った。
「もうすぐ文化祭だ。なのでクラスの出し物を決めようと思う」
クラスが一気に盛り上がる。するとその騒音で目覚めたのか、龍真が起きた。
「おはよ。これ何の騒ぎ?」
「文化祭の出し物決めるんだって」
龍真は「ふーん」と言い、机に頬杖をつく。
「俺、メイドカフェやりたい!」
と、男子が言うと、
「女子のメイド姿見たいだけでしょ、変態!」
と、女子が勝手な被害妄想を始める。
その後も次々と案が出る。
メイドカフェ、コスプレ喫茶、お化け屋敷と何にでも変装しようとするクラスメイト達。私にはよく分からない。
すると龍真が、
「叫び場」
と、謎の言葉を言い放った。
「なにそれ?」
私が聞くと龍真が説明し出す。
内容は、今年1年の抱負や目指している事、他にも失敗談や愛の告白などを叫ぶ場所を作るというものだった。
皆は「乗った!」と賛成の声を挙げ、グラウンドに叫び場となる舞台を作ることとなった。
龍真は満足気に私の方を向いて口角を上げた。その顔にドキッとしてしまったのは自分の心の中に閉まっておく。
次の日の放課後から作業に取り掛かった。私と龍真はステージの看板を作ることになった。
「さあ、どーしようか」
「まずはベースの色だな。ステージって何色だっけ?」
「全体的に白だった気がする」
すると、龍真は早速大きな木板を白色のペンキで塗り始めた。
「そんな適当で大丈夫?」
「適当じゃないし、ちゃんと考えてるから」
そう言い張り、どんどん白のペンキが無くなっていく。最終的には残ったペンキをそのままぶっかけてから塗り広げるという始末だ。
「やっぱ適当じゃん」
「大丈夫だって」
そう言って私達の腕は真っ白になった。
「あーあ。真っ白じゃん」
「美白効果だろ」
そう言うとふざけながらニヤニヤと笑って手を見せてくる。
その後も適当に【叫び場】と黒いペンキで書いていく。でも、謎にその適当さが味を出していて、なんとも面白かった。
「いえーい!完成」
そう言って30分程で完成してしまった看板を前に手を広げる。
その可愛らしい行動に、私の口端も緩む。
文化祭準備のリーダーにこれを見せると、笑いながらも味があるからOKと承諾してくれた。
そうして龍真は手を出してきた。
「え?」
「ハイタッチだよ。ハイタッチ」
龍真はそう言うと、私の手を掴み手を出させた。
パンッと手を手がぶつかり合う音が聞こえて、私は顔を赤くした。そう、龍真と触れたのだ。
一度触れた事はあった。体育館の真ん中で、龍真を起こした時。
でも今は違う。今の私は龍真が好きなのだから。
「なーに照れてんの?」
と、私の顔を覗き見つめてくる。
「バカ」
そう言って、私は逃げるように去っていった。