あれから何日も経った。龍真は授業中寝るし、いつも怒られる。
「髪を黒に染めてこい。染めるのは校則違反だ」と担任に言われたときは、「じゃあ黒に染めるのも校則違反ですね」と言って免れた。
「寝るな」と言われたときは「眠くなるような授業をする先生が悪い」と反発し、結局後で生徒指導室に呼ばれていた。
授業中、暇だったのか私の方を向き変顔をしてきて笑ってしまった為、今度は二人して怒られた。
そんな毎日を繰り返すのも、案外悪くなかった。
そしてもう一つ、私は龍真を意識していった。龍真を好きになっていたのだ。
横を向くと龍真が可愛らしい寝顔で寝ている。私はそれを眺める。心臓が一定の速さでドクドクと動いているのを感じる。
あー、私って本当に龍真のこと好きなんだな。そう感じてしまう。
龍真のことを見詰め過ぎて、私は龍真の唇の左下にホクロがあるのすらも知っていた。そして頬に真新しい痣が出来ていたことも…。
「おはよ」
龍真が起きた。お昼休みになるまでずっと寝ていたのだ。
「おはよ。もうお昼だよ」
「うん」
いつも恒例の会話だ。
「あ、そうだ。昼一緒に食わね?」
いつもならお互い一人でお昼を食べるけど、龍真となら良い。そう思った。
「うん。良いよ」
すると、
「屋上集合な」
そう言って購買に走っていった。
私は気付いた。屋上立ち入り禁止。他学校も大体そうだ。屋上に行ける学校なんて早々無い。
でも、龍真と約束したのだから仕方が無い。そう自分に言い聞かせ、お弁当を持って屋上に向かった。


清掃されていない埃まみれの階段を駆け上がる。立ち入り禁止と書かれた紙きれなんか無視して突っ切って行く。
()びたドアノブを無理矢理回し、強く押すとなんとか扉が開いた。鍵が壊れていたのだ。
龍真はこの事を知っていたのだろうか。疑問が頭をよぎる。
屋上に出ると、金髪頭の男があぐらをかいて空を見上げていた。龍真だ。
「りゅーま!」
「菜槻遅いぞ!」
文句を言いつつもニコニコで此方(こちら)に手を振る。私も手を振り返す。
近づいて行くと龍真は購買の焼きそばパンを頬張っていた。やはりヤンキーなんだなと改めて思う。
「なぁ、菜槻」
「なに?」
「何で俺なんかと仲良くしてくれるの?」
龍真は真剣な顔で、そう言った。何で?と言われても、好きだから?いや、それだけでは無い。
居心地が良いから?喋るのが楽しいから?私には分からなかった。色んな感情がごちゃごちゃになる。
「何でそんなこと聞くの」
「俺みたいな不良なんかに相手してくれるの、普通居ないでしょ」
「普通って何。私は普通じゃないの?」
口調が強くなってしまう。そんなこと言いたい訳じゃ無いのに。何で、何で…
「ごめん、そうだよな。普通って何なんだろうな。」
それでも、龍真は私の言葉を受け止めた。なんて良い人なんだろう。それに比べて私は…
私は自分を軽蔑した。
「なぁ、菜槻。俺の事話して良いか?」
龍真は深刻そうな顔つきでそう言った。断る理由なんて無かった。だから私は、
「うん。龍真の事知りたい」
そう言った。