「いきなりだが、転入生が来る」
クラスは一気にザワついた。皆は男だろうか。女だろうか。イケメンだろうか。可愛いだろうか。陽キャだろうか。陰キャだろうか。などと意味の無い事を言い出す。
どうせそんな話をしても、来る人の性別も性格も何も変わらない。頭をもう少し使えと言ってしまいたい。
ガラガラと音をたてながら扉が開く。そこには…
ヤンキーという言葉がとてつもなく似合うであろう男が立っていた。
明るめの金髪、耳に空いた三連ピアス、着崩した制服にキツそうな目。これぞ不良と言わんばかりの見た目だ。
古賀(こが)龍真(りゅうま)。宜しく」
宜しくも何も、宜しく出来るような相手では無い。絶対に仲良く出来ないであろう。それは確かだ。
「それじゃあ、そこの空いてる席に座れ」
そうして先生が指した席は、私の隣だった。「最悪だ」もうそれしか頭には無い。
何故隣の席が空いていたのか、その理由が今分かった。
古賀龍真が席に着く。私の方を向くと手招きをした。一体何がしたいのだろう。よく分からないが少し身体を古賀龍真の方に寄せた。すると、
「ねぇ、俺って怖い?」
と、耳打ちしてきた。まさかの自覚済みで、しかも私にそれを聞いて来るとはなんとも意外な行動だった。
私は正直に答える。
「うん、怖いかも」
すると古賀龍真は微笑し、
「やっぱそーだよな。ありがと」
と、もう一度私に耳打ちした。
よく分からないが、案外良い人なのかもしれない。私はそう思った。
先生の自己紹介が始まる。長々と昔話を喋る先生。とても退屈だ。
やっと終わったかと思ったらプリントが大量に渡される。ファイルに丁寧に入れていく。新しい物は丁寧に、そして適した使い道で使う。
古くなっていくにつれ、団扇にしたり使わなくなったりする。それが私の悪い癖だ。
隣を見る。古賀龍真はプリントを貰うと、すぐに机の中に放り込む。やっぱそーだよなと納得してしまう。
そう言えば古賀龍真の事を何と呼べば良いのだろう。
古賀さん?古賀くん?龍真さん?龍真くん?龍真…いや、それは辞めておこう。
そうして私は聞いてみることにした。
「ねぇ、」
「なに?」
無視されたりしないだろうかと思ったが、案外普通に接してくれた。
「君のこと、何て呼べば良い?」
「あー、何でもいいよ」
「何でも良いが一番困る」
「じゃあ、龍真」
私はビックリした。まさかの呼び捨て。
古賀龍真…じゃなくて龍真は、見た目以外ヤンキーでは無かったのだ。
「お前は?」
「え?」
「俺はお前のことなんて呼べば良い?」
「ああ、」
ここはやはりお互い呼び捨てにするべきだろうか。それとも普通に苗字で…うーん。
「お前の名前、そーいや知らない」
「あ、そっか。平敷(ひらしき)菜槻(なつき)です」
「じゃあ菜槻で良いじゃん。宜しく、菜槻」
「ああ、うん」
そうして龍真は前を向いた。
よく見てみると、龍真はとてつもなくイケメンだということに気が付いた。
白く透き通った肌に、鼻筋が整っていて、パッチリ二重にキリッとした眉毛。薄い唇は少し緩んでいるように見えた。私の気の所為かもしれないが。
キーンコーンカーンコーンと聴き慣れたチャイムが鳴り響く。
一斉に皆が立ち上がり、体育館へと向かった。始業式があるからだ。
「行かないの?」
聞いてきたのは龍真。
「行くよ。別に始業式サボるような人間じゃないし」
そう言い放って教室を後にした。