これはもう、全力で走って先輩から逃げるしかない…。
ちらりと横を見ると、ダン、と誰かの手が顔の横の壁につかれた。
今こんなことをするのは、目の前にいる先輩、ただ1人。
これが俗に言う壁ドンか…と思ったのも束の間。
すぐに驚きに塗り変わる脳内。
「な……」
なんで…。
「キャーー!壁ドン!?」「あの2人どういう関係!?」……。
途端女子達から悲鳴があがる。
あぁ…なんでこんなことに。これは明日には根も葉もない噂が広まってるな…。
私と中条先輩は、ただの先輩後輩なのに。
周りの女子達は何かを囁き合いながら、視線をチラチラとこちらに送ってきている。
いや、どうするんだこの状況…。
と思ったのもつかの間。
先輩は壁についていた手をどけて、今度は私の手を掴んだ。
「な…にして…」
「だって彩葉ちゃん、手でもつないでないと逃げるでしょ」
う…図星だ。
「そりゃ、まぁ…」
先輩と一緒に居るとろくなことにならないし…。
「あは、素直でよろしい。」
そう言って手を繋いだまま歩き出した先輩。
手を掴まれているので、必然的に私も先輩についていくことになる。
