Dying music 〜音楽を染め上げろ〜








「っ…はぁッ……」


追いかけて着いたのは1階の保健室。この学校の保健室、教室から地味に遠いんだよな。階段降りたらその先まで行かないといけないから急いでいると息が切れてしまう。そのまま廊下の角で足を止めた。




――「キサラン!」

  「ごめんね。彩音テンション高くて。まだ慣れないでしょ。」



いつも一緒にいる人たちだ。名前は分かんないけれど。そして2人が話しかけているのが。



――「大丈夫だよ。彩音がテンション高いのはいつものことなんでしょ?」



如月ナツキだ。

  

(え〜…どっちだ?)



声だけだと判断できない。男?女?どっち?そんなことを考えつつ聞こえてくる会話を聞く。


 
――「キサラン、今日ギター弾いてくれるんでしょ?」

  「あるよ。先生に借りてきてもらった。つーか、キサランって?」

  「あだ名だってさ。夏樹の」

  「却下。」



んー、やっぱり男?




――「え、また却下!?」

  「ほら言ったじゃん。」

  「しょんぼり。まあいいや。それより早くギター聞きたい!」

  「わかった。準備するから待ってね。」




保健室登校しているのか。どおりで休んでいる割には机の中にプリントが溜まっていないわけだ。ここで課題とかやってんのか。しばらくすると中から音色が聞こえてきた。




♪〜♫♪♩〜〜…




!!



これ、サクトさんの「FirstKing」じゃないか。選曲にも驚いたがそれ以上に驚いているのは、このギターの音色だ。



鳥肌が立つくらいのうまさだ。



ロックって多少荒々しくなりがちなのに、雑さが全く感じられない。アコースティックギターの音色を活かした弾き方。盛り上がるところは抑揚をハッキリ。

コードチェンジも正確、単音も完璧。途中、音を入れながら遊ばせている感じもある。

こんな上手い人、久しぶりに聞いた。

夢中になって演奏に聞き惚れてしまった。



その時、




ガッ!




(やっべ!)




後ろにあった台に気づかず、足を引っかけた。




――「誰?」