Dying music 〜音楽を染め上げろ〜






校舎の4階、ついこの間入学してきたばかりの1年生たちの教室がある。高校という場所にも慣れて、新しくできた友達と賑やかに談笑するクラスメイトの姿。壁の掲示板には新入生向けの説明会や授業オリエンテーションの日程が書いた掲示物が貼られている。そんな教室の中で多賀涼《たがりょう》はスマホをいじっていた。



「涼おはよ!」

「はよ。」




話しかけてきたのは4組の杉崎怜斗《すぎさきれいと》と2組の古川恭弥《ふるかわきょうや》。


涼はみんなのでまとめ役、冷斗はいつもうるさいけれど友達想いの良いやつ。恭弥はクール。そんで毒舌。それぞれ性格は違うけれど、小中一緒の仲良し3人組。


「昨日のCyanの歌ってみた聞いた?『カミナリロジック』!」



怜斗がテンション高めに話してきた。




「聞いた!やっぱすげえよなぁ〜」

「スピード感あってヤバかった。恭也も聞いた?」

「あぁ。」

「どうだった?」

「さすがって感じ。低音から高音への切り替えにびっくりした。」




毎日そんな他愛のない話をする。昨日のテレビだとか、授業どこまで進んだのかとか。そんな話。今はとある歌い手について話している。


名前はCyan《シアン》。

 

インターネット上で活動している正体不明の活動者。中性的な歌声と豊かな表現力が特徴の歌い手だ.

Cyanはすべての作業を1人でこなしている。。通常はそれぞれ専門分野の人たちが分業しながら一つの作品を作り上げることがベター。だが、概要欄を見ると作詞作曲、編曲、編集作業さらにはMVに使用されるイラストまですべてにCyanの名前が記載されているのだ。

しかし、誰もCyanの詳細は分からない。他の歌い手とのつながりも不明。コラボ動画や配信は今までに一度もない。唯一分かっているのは現在、現役の高校生であるということ。性別も素顔も明かさず、歌唱力と表現力のみで人気を集めている。



「それより」



恭弥が2人に話しかけた。




「どうすんの?人集め。」





・・・・・・・・




「ワスレテタ。」




間を置いたあとに片言で涼が答える。


「はぁ、しっかりしろよ。一応お前がリーダーだろ。」


恭弥がため息をつく。



「でもそうだよ。マジで人集めどうするんだ?」

「署名は友達に回してもらって集まったけれど、楽器できないから入部はしたくないって言っててさ。」




楽器。




3人の共通の趣味はズバリ、音楽。



中学まではたまにセッションするくらいだったのだが、高校から本格的にバンドを組み始めたのだ。だが、自分たちだけでやるというわけではない。

彼ら新しく高校に軽音楽部をつくろうとしている。新しく部活動を創設するにあたり、署名は何とか集まった。段階的にはあと一歩のところまで来ているのだが、初期メンバーとして最低4人が必要でそのあと1人を探している。

署名に協力してくれた人を勧誘してみたものの涼が言った通り、「楽器未経験」という理由により誰一人として入ってくれる様子はない状態だ。




♪キーンコーンカーンコーン




予鈴が鳴って急かされるようにクラスのみんなが席に着き始める。



「じゃあまた昼休みな!」


2人はそのまま自分たちの教室に戻る。




しばらくして担任が入ってきた。出席簿を広げて確認をする担任。だが涼は窓の外を眺めているだけ。花弁が散って緑づいた桜の木が目に入る。



「ええと、今日の休みは~、…如月だけだな。」



今日も、か。



涼の4つ後ろの席。ずっと空いたままだ。名字が如月ってことは珍しかったから覚えていた。しかし、入学式があったばかりだからクラス全員の顔と名前がまだ一致していないので下の名前も顔も知らない。


それよりも、涼はバンドのことで頭がいっぱい。部活動を作るための期間も限られているからなるべく早く見つけたいという気持ちはある。



(また作戦会議だなあ)