Dying music 〜音楽を染め上げろ〜





そこから師匠に教えてもらった。TAB譜の読み方、コードの押さえ方、セッティングのやり方、ギターの技術からこのストリートのことまで全部。

音楽の世界のこと一から教えてもらった。ギターは難しかった。Fコードなんて全然押さえられなくて。弦の変え方も下手くそで一発で上手く張れなかった。

それでも楽しかったし、音楽に触れることが幸せだった。




ギターを始めて3年が経ったある日。



「どんな景色か味わってこい。」


小5になってすぐ、初めてMidnightのステージに立った。憧れのステージに立てる、と喜んだのもつかの間。結果は散々。

目の前の客に手が震えた。最初の頃は今のようにたくさんの歓声や拍手を貰うことなんてできなかった。むしろダメだしの方が多かった。拍手なんて1,2人、それも賞賛ではない、子供の僕の心中を察した慰めの拍手だ。



「音が弱っちいんだよな。あの年で人前で弾けるのはすげぇが。」

「音もズレズレだしな。」



年齢なんて関係ない。10歳の小学生に容赦なく浴びせられた言葉。

今までのお遊びと違う、

憧れの気持ちだけじゃ追いつけない。

本気でやる音楽の厳しさを痛感した。何よりも、



「長澤さんの弟子って聞いたから期待したんだけどなぁ。」



僕のせいで師匠の名前が出されることが申し訳なかった。上手く演奏できない自分に腹が立った。期待にも応えられない未熟者。悔しかった。ステージ裏で何度も泣いた。



「音楽は他人から評価されるためにあるモンじゃねぇぞ。」



そんなこと知ってるもん。でも、悔しいんだもん。



「ここからどう立て直すのがいいと思う?」



グズグズ泣き続ける僕に師匠は毎回聞いてきた。今の自分に何が足りないのか、どう改善していく?小さな脳みそでいつも考えた。



「コード間違えたからもう一回復習する。…カッティングがブレるから手首をちゃんと固定する。あと…しっかり曲を聞く。」



いい方法だ。そう言われると毎回ギター用のノートに改善点を書き込んだ。





「一つ、話をしよう。」



師匠は隣に座った。




「音楽ってのはな、透明なんだ。その人によって色が変化する。」




最初意味が分からなかった。透明?まず音楽は物質じゃないから色はないだろって。存在しないじゃんって疑問に思った。



「何年も時間をかけてやっと自分の色が分かるんだ。」


自分の色。一体何色なんだろう。



「私の色は何色に見える?」

「それは分からん。だから自分で染めていくんだ。」

「染める?」

「あぁ。自分の好きなやり方でいい。お前の音楽の色を探せ。ほかの誰にも支配されない、夏樹だけの色にするんだ。」





練習するしかなかった。




学校から帰ってやること終わらせたらすぐに練習した。お風呂に入って着替えたら寝るまで練習。

知識や技術が増えていくと、もっと音楽にのめり込んでいった。

作詞作曲も始めた。

メロディー進行も語彙力も幼稚、見よう見まねで作ったような曲だ。

師匠からは一気にやると分からなくなるぞって言われたけれど、この方が音楽の世界が広がると思った。





「何でそこで押さえるんだ。ちげぇだろ。」

「そこは素早く指移動させないと音汚くなるって言っただろ。」

「もっと小刻みに。バラけんな。」






師匠からの指導も厳しくなった。そのおかげもあって6年生に上がる頃にはアドリブ対応や難しい曲も弾けるようになった。

少しだけど、弾き語りも始めて、1か月に数回、ステージに立たせてもらった。

僕だけの色を見たい。

もっと上手くなって、みんなに聞いてもらいたい。

その一心で練習した。




これがギターを始めた経緯。