僕が音楽を始めたのは8歳のとき。無表情で何も喋らない僕に長澤さん…師匠はギターを見せてきた。
「これ何か分かるか?」
「………」
「これはな、エレキギターっていうんだ。この部分がネック、それでここがペグ。ここがボディで…」
師匠は独り言を言うようにギターの説明を始めた。急に部位の名前言われても分かんないよ。
「それでこのシールドってやつをアンプに繋ぐ。」
カチャカチャとなにか作業をした。
「見てろ。」
♩♪♬♩~~~~~‼
師匠がギターをストロークした瞬間、ジャーーンという電子音が流れた。
その音に、体の中心から何かが込み上げてきた。
独特な電子音。耳に刺さるような感覚。
何だろう。
ギターってこんな音が出るの?
糸が6本しかないのにどうしてこんなにたくさんの音が出るの?
一瞬でギターという楽器の虜になった。
「まぁ、こんな感じだ。他にも楽器ってのは色々ある。あそこにあるドラムなんかも~…」
知りたい。こんなにも心臓がどくどくする、この音の正体を知りたい。
「………どうやって…弾いているの……?」
聞こえるか聞こえないかの声でそう言った。が、何も返事は聞こえない。やっぱり聞こえなかったかな、そう思って顔をあげた。
でも、目の前にあったのは驚いた様子で固まっている師匠の姿だった。
「ギター、弾いてみるか?」
その言葉にコクンと頷いた。それからの師匠の行動は早かった。奥の方から大きい機械やらホースみたいな線やらを持ってきた。あっという間に準備を終え、カートをざっと持ってこちらに来た。
「どれがいい?」
そう見せてきたのはギター。1,2,3……10本くらいある。色も赤とか黒とか茶色とかたくさん。
「ギターにもいくつか種類があってな。これがレスポール、これがテレキャスター、ジャスマスター、ストラトキャスター。」
れす…わかんない。すとらいぷきゃすたーって何?どれを選べばいいんだろう。端から端までまじまじと見た。
あ。
あれはなんだろう。すごく綺麗な色。
俺は目の前にあるギターではなく壁側にある一本のギターを指さした。
「あれか。」
師匠は立つとそのギターをとってきた。
「これはストラトキャスターだな。新品だ。」
「………これがいい……」
「前に試し弾きしたがいい音だぞ。弾いてみるか?」
そう言われ渡されたギターを持った。
重い…それに大きくて腕の中に納まりきらない。あたふたする僕に
「左手でネック部分を持つんだ。それで…あ、これはピックな。これを持って…いいじゃねぇか。」
師匠が体勢を整える。ほら、弾いてみろ。といわれ恐る恐る右手をストロークさせた。
♩♪♬ーーー‼
かっこいい。面白い。何回も何回も同じように弾いた。
「人差し指でこの弦を押さえてみろ。中指と薬指はここな。」
ちょっとした押さえ方も教えてもらいながら夢中で弾いた。
「どうしてそれがいいと思ったんだ?」
満足するまで弾くと師匠が聞いてきた。
「色が…きれいだったから。」
「色か。この色はシアンブルーだな。」
「……水色、じゃないの…?」
「少し違うな。青色に少し緑がかかっている色だ。夏樹、夏生まれのお前にぴったりな色だぞ。」
夏樹、ぴったり、色…
「………あの大きいの何?」
「あれはアンプだ。」
「ランプ?」
「アンプ。音を増幅させるものだ。」
「…このホースは?」
「シールド。アンプと繋ぐためのものだ。」
気になったものは全部聞いた。他の楽器、ドラムなんかも叩かせてもらったがギターに勝るものはなかった。
「ギター、気に入ったか?」
「………ぅん。」
「じゃあこれお前にくれるよ。」
それからピックやギターケース、ヘッドフォンなど一式を揃えてくれた。
「まぁ、あれだ。もし、もっとギター弾きたいって思ったらなみな…、お母さんに連れて来てもらえ。」
このシアンブルーのギター。
僕の宝物。
これが音楽の始まり。
