「ふざっけんじゃねぇよっ‼」
恭也が夏樹に掴みかかったとき夏樹が後ろに倒れた。いつも冷静な2人が感情をぶつけ合っている姿に今までにないほど焦った。マジでダメだと思った。止めないと、って。
離そうと怜斗と頑張ったけれど、そのまま二人は言い合いを続けた。俺らの声、聞こえていなかったんだよな。
喧嘩したことも悲しかったけれど、もっと悲しかったことは夏樹が俺らを頼ってくれなかったこと。
「夏樹ってさ、今スランプだよね。」
夏樹が部屋を離れたとき怜斗と少し話した。
「多分なぁ。あそこまで不調なの見たことねぇし。」
この間から音やピッチが安定していなかった。最初は調子悪いのかなって思っていたが、日が経つにつれて悪化していった。いつもの夏樹のギターは繊細で力強いけれど、その音がか細いんだ。
スランプのこと何で相談してくれなかったんだろう。
俺らバンドメンバーなのに。
辛いことがあったら助け合うのは当然だろ?
俺も俺だ。
愚痴だって何時間でも聞くし、慰めだって、一緒に解決案を考えてあげることもできたはずだ。
行動しなかった。
夏樹には変な迷惑かなって遠慮した。
それから恭也のこと。
あいつは、よく俺らをからかうけれど、大事な場面では頼りになる奴だ。
ギターも高校に入ってからもっと上手くなった。
音楽に対しても上を目指しているし練習だって休まない。
恭也にもしっかり声かけておけばよかった。
部長として、もっと周りを気遣うべきだった。
Cyanについては最初何言ってんのか分からなかった。今考えると思い当たることはいくつかある。
夏樹は、俺らの前では鼻歌すらも歌わなかった。カラオケに誘っても、「俺は歌が下手くそだから」と頑なに行こうとはしなかった。それなのに、バンドフェスの練習で怜斗にMixボイスの使い方を教えていた。夏樹はバンドさんから教えてもらったって言っていたけれど、じゃあ何でそのバンドさんはボーカルでもない夏樹に歌い方を教えたんだ?
「俺この人の感じの裏声を使いたいんだけどアドバイスない?」
ある日には怜斗が発声方法を聞いていた。
「…エッジとウィスパーのかけ方で表現力出してる…すごいな。多分これは共鳴させて出す裏声。鼻と口と喉を全部開ける感覚だよ。」
そこからネットで細かいやり方を調べてくれたんだ。
知識量が普通の高校生じゃないと思った。
数回聞くだけで癖が判ったり、アドバイスできる人はそうそういない。
あの歌い手のCyanが夏樹?
意味わかんねぇ。
つか、何で恭也が知っているんだよ。
夏樹は本当に俺らとバンドやっていて楽しいって思ってくれているのか…。
もしかしたら、わがままに付き合わせているだけなんじゃ…。
何が何だかマジで分かんねぇ。
どうすればいいんだよ…。