Dying music 〜音楽を染め上げろ〜



家から学校までは徒歩とバスで約1時間。



校門はガランとしていて誰もいない。そりゃ授業中だもんな。たまに遅刻で遅れてくる人と鉢合わせることがあるんだけど、その時はもう気まずいよ。そのまま生徒玄関から1階西校舎にある保健室へ向かった。



「おはようございます。」

「如月さんおはよう。」



保健室で待ってるのはこの学校、神奈川県立清条高校の養護教諭である浪川桜先生。


「また体操着で来たの?全く~」

「制服苦手なんですよ.......。」

「分かるけどー」



隣の相談室に荷物を置くと登校シートを記入する。出席の代わりみたいなもので、登下校時刻と課題の提出、担任への連絡事項みたいなものを書く。この保健室登校を勧めてきたのは浪川先生だ。僕の事情を知った上で担任の許可を取って登校している。


1限から3限まで、週3日。ここで勉強。慣れてきたら少しづつ日数を増やしていこうって先生と親とで話し合って決めた。


あ、担任からコメント来てる。ええと、身体検査の結果か。身長伸びてたかな。あとで見てみよう。学級配布物と行事のプリント、書類などをファイルに入れて勉強を始める準備をする。


国語のプリントに名前を書いていたときだ。



「あ、そういえば」



浪川先生の声で作業を止めた。先生はこちらを見ると



「如月さんって部活何も入っていないわよね?」

と、聞いてきた。

「はい。」

「如月さんに提案があるんだけれど、―――――― 軽音楽部入ってみない?」






トクッと心臓が小さく跳ねた。





「軽音楽部、ですか。」

「うん。今年うちの学校、新しく軽音楽部ができたのよ。まだ同好会扱いらしいんだけれどね。」


詳しく聞けば、廃部になった軽音楽部を新しく今年の1年生が復活させたと。それで今は初期の創設部員を探し回っているという。ていうか1年生で部活って作れるんだ。



「如月さん、ギターできるからどうかなって。」




…………。



「………遠慮しておきます。」

「あらそう?」

「部活には入る気ないんで。すみません。」

「いいのよ~。人それぞれ!部活入ってたからどうこうってわけじゃないからね。」




浪川先生のこういうところが好きなんだよね。無理に押し付けないところとか、相手の意思を尊重してくれるところとか。それより、



……軽音楽部。ってことはバンドだよね。












――『君もうちょっと手抜けない?』

――『君が上手すぎると主役の俺らが目立たないんだよ。もうちょっと合わせてくれ。』

――『君はただのサブだ。』

――『ガキが調子乗ってんじゃねぇよ。』









っつ!





あー、頭痛くなる。考えるのやめよ。バンドは…、みんなでやる音楽はもういいんだ。




そのまま国語のプリントを進めていった。古典の文法、小説の読解と漢字。それが終わったら次は世界史。古代か。なんかカタカナ多くて難しい。忘れるかのように黙々とこなした。教室で授業を受けない代わりに課題の量はそこそこ多い。しっかり集中しないと終わらない。




途中10分の休憩を挟みながら、何とか今日のノルマを終わらせた。と同時にお昼休みのチャイムが鳴る。






…そろそろ来るんじゃね?