怜はリビングに置いてた鞄から小箱を取り出した。

そして私の前に傅く。

「俺と結婚してください」

「どうして?」

唐突すぎて頭が回らない。

急なプロポーズに高鳴る鼓動を抑えて、平静を装う。

だって相手は白虎総長で、次期若頭でこの町の誰もが憧れる存在。

顔が整っていて頭が良く、性格も穏やかで優しく、まさに長所ばかりの人だ。

反対に私は役立たずで、無能で、足手まといなのだ。

結婚なんて言葉、真に受けてしまえば私自身が傷つくかもしれない。

心の奥底で予防線を張ってしまった。

だって何もない私に、昔会ったと言うだけで、ここまで助けてくれたり家に住ませてくれたり、ずっとお世話になりっぱなしだ。

これ以上望んではいけないし、今感じてる幸せが例え仮初でも出来る限り続けていたいと思う。


「あの家から沙羅を連れ出すためだ」

「私のため?」

「もうすぐ18だろう?結婚してあの家からきちんと出ないか」

「両親の許可なんて貰えると、思えないんだけど…」

「許可なら取ってきた、さっき」

「さっき!?私の家に行ってたの?」

「そうだ、そこで沙羅と結婚することを認めてもらえたから問題なしだ。最初は渋ってたが会社に融資する話をしたらあっさり頷いていたな」

「…そうなんだね」

これでは両親に売られて怜に買われたようなものだ。

怜はプロポーズという形をとってくれたけど、拒否権なんて存在しないんじゃないのかな。

今まで優しくしてくれて、好意を抱き始めていた分、悲しくなる。