拝啓囚人の貴方

「今年の冬は暖かい」今朝のニュースはそう告げていたが実際はそんなこともなかった。壊れてしまった教室の暖房は奇妙な匂いの風を出すだけで教室は冷えていく一方だ。
寒さに耐えながら聞かされる偉人の生き様は私にとってあまりにもどうでも良いものだった。誰がどう生きるだの、誰に命を捧げるだの阿呆らしい。最後に付け加えられた「皆さんも、人のために何かをできる人になりましょう!」という活気に溢れた一言が私にはどうしても癪だった。自信満々な教師の表情、臭い教室、たまに聞こえるクスクスと何かを笑う声、全てが癪に感じた。それらに耐えきれず逃げるように窓の外に視線を向けたが求めていた綺麗な青空など何処にもなく、今にも降り出しそうな雨が空を灰色に染めているだけだった。
"こんなつまらない世界でずっと生きていくのだろう"不意にそう感じた。


授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると学校は一瞬にして青春に包まれた。部活に向かう野球部の楽しそうな声、クラスで談笑する一軍たち、隣の席の女子たちはこの後駅前のカフェに行くらしい。もちろん、そんな青に馴染めない私は真っ直ぐに帰宅する。リュックに荷物を詰めている間、人の輪に馴染めない自分が、その事実を過剰に受け取め萎えている自分が哀れに思えて仕方なかった。友達なんて一人もいない。虐められていないだけ幸運なのだろう。残りの3ヶ月を1人で過ごす覚悟はとっくの昔にできていた。その前の2年間をひとりぼっちで過ごしているのだから。学校から逃げるようにして自転車のペダルを踏んだ。